花束贈呈拒否シーンには怒りさえ湧いてきました。
69話、穂高重親(小林薫)先生が最高裁判事を退く退任記念祝賀会でのことでした。
穂高先生への「感謝はしているけれど許さない」という態度は、見ていてとても不快でした。
脚本家の計算だとは思いますが。演じたのが好感度の高い伊藤沙莉さんでなかったら、もう観たくなくなってしまったかもしれません。
ここで、浮き彫りになったのは、主人公寅子(伊藤沙莉)の現時点での焦りと未熟さだと思うのです。
1.短期的に結果を求めようとする。
2.完璧でありたいと思う。
この2点が現時点での寅子(伊藤沙莉)の感情を占めています。
この思いが、自分は折れない、許さないと非寛容な行動、怒りを全面に出してしまったのです。
脚本家・吉田恵里香さんは、現時点では「自分しか見えてない、人の思いがわかっていない」主人公だと見せつけ、
この未熟さが巨大なブーメランとなって返ってくる!ということを暗示しているのでは?と思いました。
感謝はしているけれど許さない
まるで反抗期、思春期の子どものような感じです。
穂高先生がどれほどの恩人なのかよくわかっているはずです。
それでも、許さないなんて。どう考えたらいいのでしょうか。
「通過儀礼」心理学でいうところの父殺しなのかもしれません。
寅子のお父さんは、なんでもイエスの人だったので、穂高先生が高い壁を引き受けてくれたのかもしれません。
ブーメラン
感謝はしているけれど許さない。のブーメラン
寅子の家族も寅子が大黒柱としていてくれることに感謝しているけれど、不満が高まってきています。
寅子が家族の気持ちに気づくことができるかどうか。軌道修正できるかどうかが今度のターニングポイントになりそうです。
家族にとって、
一家の大黒柱として仕事に多忙な日々を送っている寅子には、感謝はしている。けれど・・・・・
という状態なのがわかります。
第73話のいろはカルタの場面が象徴的です。
寅子の帰宅時、普段は聞こえない子どもたちの楽しげな声が漏れ聞こえてきます。
いろはカルタの句
直明(三山 凌輝)と直人(琉人)直治(楠楓馬)優未(竹澤咲子)が楽しそうにカルタをしています。
読み上げていた句にハッとさせられました。
「犬も歩けば棒に当たる」は寅子の行動がもたらす災難を暗示
「ちりも積もれば山となる」は家族の蓄積された我慢が山となっていく
「知らぬが仏」は家族の真の姿、知らないのは寅子だけ。
感情をぶつける家族たち
それにしても花江森田 望智(もりた みさと)は、我慢しすぎている感があります。
やっとやっと感情をぶつけます。
「あなたは何も見えていない」
「言いたいことも言えないような空気を作ってきたのは寅子自身だ」
親友同士で何でも話せていたはずなのに、寅子が一家の大黒柱のような存在になってからは関係性が変わってしまっていたのです。
子どもたちも、不平不満を寅子にぶつけます。
自分が正しい、努力すれば夢は叶うと思っている。
「手のかからないお利口さん」になるよう無意識に期待とプレッシャーをかけてしまっていたことに気づかされます。
稼ぎ手の寅子に、ようやくやっと家族がずっと言いたくても言えない思いを伝えることができたのです。
反感を買う
寅子の物言いは、さまざまな理由から現実的な生き方をせざるを得ない人にとっては、酷な言い方です。
上から目線、自分が絶対正しい、という押し付けを感じます。
すべての人が、自分が努力さえすれば道は開けるなどという恵まれた環境ではありません。
仕事でも、後輩にも、家族にも、反感を買うようなシーンが続きました。
君もいつかは古くなる
今までの寅子は、弱き者の味方として、強き者をやり込めるために自分の正義をふりかざして戦う。
それは見ていて痛快でした。
ところが、自分が強者権力者になると、弱い立場の人の思いや状況などを想像できなくなるのです。
そこで、穂高先生の最後の寅子へのメッセージの回収になります。
「気を抜くな。君もいつかは古くなる。常に自分を疑い続け、時代の先を歩み立派な出がらしになってくれたまえ」
今、力を持っているのは自分だということに無自覚なのです。
正論をふりかざして、刃物を突きつけられたり、、後輩の女性司法修習生たちの一人ひとりが抱える事情や状況もわからないのに、「あなたたちは恵まれているんだから」と言ってしまったり。
反感を買う朝ドラの主人公というのも珍しいです。好感度の高い伊藤沙莉さんが演じていても、ムカムカする態度が続きます。
単に優等生的な主人公を描いていない分、ハラハラもするし展開も気になります。
単なるサクセスストーリーにしない
69話の花束贈呈拒否あたりから続く寅子の行動から目が離せませんでした。
嫌な部分が「これでもか」と出てくるのです。
確かに家族を支えるために一生懸命仕事をしていると、周りが見えなくなることもあります。
難しいですね。
ふとしたことで、自分への不満を知ることになります。
最初は、自分の何がいけないのか、なぜ不満に思っているのかわからないようでした。
そして、家族の寅子への正直な気持ちを聞いて、咀嚼しようとしました。
家族が自分に不満があるとわかった以上、反省すべきところは反省し謝っているところが立派だと思いました。
優未(竹澤咲子)は、寅子の前では「いい子を演じる」呪縛からまだ解き放たれていないようです。
明日からの新潟編から目が離せません。
最後に
「気を抜くな。君もいつかは古くなる。常に自分を疑い続け、時代の先を歩み立派な出がらしになってくれたまえ」
すごいセリフです。名言です。どうやったらこの言葉を生み出せるの?
君もいつかは古くなる。そうなんですよね。つい忘れがちです。
年を取って初めてわかることがいかに多いか痛感しているところです。
脚本家の吉田恵里香さんは、いったいどんな方なのか知りたくなりました。
吉田 恵里香(よしだ えりか、1987年11月21日 – )え~~~~まだ36歳なんですね。
人間力、観察力、感情を揺さぶられる言葉の数々、素晴らしいとかしか言いようがありません。
今後も目が離せません。吉田恵里香さんの作品をチェックしてみたいと思います。